相続開始の時点では手帳がなく、申告期限までに交付を受けた相続人について、
障害者控除を受けるときの添付書類の要否と、
相続税法基本通達19の4-3の要件を整理しました。
手帳の写しも医師の診断書も、法令上の添付義務はないと考えられます。
相続税の申告書の添付書類を定める相続税法施行規則16条3項に、
障害者控除に関する書類は含まれていません。
ただし、相続開始の時点で手帳がなかった人を障害者として扱うのは、
法令ではなく通達(相続税法基本通達19の4-3)の取扱いです。
手帳には発病時期や相続開始時点の病状が書かれないため、
実務上は手帳の写しと、手帳を申請したときの診断書の写しをあわせて添付し、
通達による適用である旨を明記しておくのが無難です。
詳しい回答は詳細タブの1章へ
| 書類 | 法令上の添付義務 | 通達19の4-3での位置づけ | 実務上の扱い |
|---|---|---|---|
| 手帳の写し | なし | 要件(1)の確認と、要件(2)の資料の一つ | 添付をおすすめ |
| 手帳を申請したときの医師の診断書の写し | なし | 要件(2)の資料。相続開始時点の状態を示す中心 | 添付をおすすめ |
| 障害年金の年金証書等の写し (年金の書類で手帳を申請した場合) | なし | 要件(2)の資料 | 添付をおすすめ 受給開始の時期に注意 |
| 主治医の意見書(任意の様式) | なし | 通達が挙げる資料には当たらない | 補強資料 |
| 通院の記録(自立支援医療の受給者証など) | なし | 通達が挙げる資料には当たらない | 補強資料 保存しておく |
| 通達19の4-3を適用している旨の説明 | なし | ― | 添付をおすすめ 別紙や書面添付に記載 |
通達の要件と書類の関係は詳細タブの3章へ
確認事項の全件は詳細タブの6章へ
法令上の添付義務はないと考えられます。
相続税の申告書には「財務省令で定める書類」を添付することとされ(相続税法27条4項)、
その書類は相続税法施行規則16条3項に列挙されています。
列挙されているのは、戸籍の謄本等、戸籍の附票の写し、特定一般社団法人等の登記事項証明書で、
障害者控除に関する書類は含まれていません。
また、相続税法19条の4には、配偶者の税額軽減(相続税法19条の2第3項)や
小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4第7項)のような、
「書類の添付がある場合に限り適用する」という規定もありません。
国税庁の資料も、障害者控除の書類を添付必須とはしていません。
「相続税の申告のしかた」の主な提出書類の一覧には、障害者控除の区分がありません。
「相続税の申告のためのチェックシート(令和6年分以降用)」は、
税額控除の行で障害者手帳を「検討資料」として挙げていますが、添付欄のチェックボックスはなく、
凡例では「チェックボックスがない項目は添付不要」とされています。
とはいえ、手帳の写しは等級と交付年月日を示す基本の資料です。
税務署からの照会を減らすためにも、添付しておくのが実務的です。
こちらも法令上の添付義務はないと考えられます。
ただし、相続開始の時点で手帳がなかった人を障害者として扱う根拠は、
法令ではなく相続税法基本通達19の4-3の取扱いです。
この通達は、相続開始の時の現況において、明らかに手帳に記載される程度の障害があったことを、
手帳、手帳申請用の医師の診断書、または障害年金等を現に受けていることを証する書類により
認められることを要件にしています。
手帳に記載されるのは、写真のほかは氏名・住所・生年月日・交付番号・交付年月日・有効期限・障害等級だけで、
発病時期や相続開始時点の病状は書かれていません
(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行規則25条、同法施行令6条2項)。
そのため、相続開始後に交付された手帳だけでは、相続開始時点の状態を示しにくいといえます。
したがって、診断書は「添付しないと適用されない書類」ではありませんが、
通達の要件を満たしていることを示す中心的な資料です。
実務上は、手帳の写しとあわせて診断書の写しを添付し、
通達19の4-3による適用である旨を明記しておくのが無難と考えられます。
相続開始の時に手帳の交付を受けていない者であっても、次の要件のいずれにも該当する者は、
手帳の交付を受けている障害者として取り扱うとされています。
手帳が2級・3級なら一般障害者、1級なら特別障害者です
(相続税法基本通達19の4-3、19の4-1(2)、19の4-2(2))。
| 資料 | 根拠 | 相続開始時点の状態を示せるか |
|---|---|---|
| 交付を受けている手帳 | 精神保健福祉法45条 | 等級は分かるが、病状や発病時期は書かれない |
| 手帳申請用の医師の診断書 | 同法施行規則23条2項1号 (初診日から6か月経過後のもの) | 初診年月日・病歴・病状が書かれ、中心的な資料になる |
| 障害年金等を現に受けていることを証する書類 | 同法施行規則23条2項2号 | 受給権の発生日が相続開始前なら強い裏付けになる |
身体障害者手帳の場合は、身体障害者福祉法15条1項の診断書が資料になります。
精神障害の場合とは根拠規定が異なります。
なお、通達が挙げる資料に「等」の文字はないため、
任意の様式の意見書は、それだけで要件(2)を満たすのは難しく、補強資料という位置づけと考えられます。
要件(1) 「法第27条の規定による申告書」は、期限内申告書を指すと読むのが自然です(相続税法1条の2第2号)。
申告期限までに手帳の交付を受けていますので、期限内に申告書を提出すれば満たします。
要件(2) 手帳申請用の診断書には、主たる精神障害の初診年月日、
発病から現在までの病歴と治療の経過、現在の病状・状態像などが記載されます。
初診日が相続開始よりかなり前で、相続開始の前後を通じて継続して治療を受けていたことが読み取れれば、
相続開始時点でも手帳に記載される程度の障害があったと説明しやすいと考えられます。
自治体の記入要領では、現在の病状・状態像は
「おおむね過去2年間に認められたもの及び今後2年間に予想されるもの」を含めて記載することとされています。
相続開始から間もない時期に作成された診断書であれば、
相続開始時点の状態も記載の範囲に入っていると説明できる可能性があります。
手帳用の診断書は、申請時に原本を提出します。
写しを取っていない場合は、医療機関の控えを確認するか、
都道府県(精神保健福祉センター等)への保有個人情報の開示請求を検討します。
| 前提 | 扱い |
|---|---|
| 手帳を医師の診断書で申請・取得した | 診断書の写しが中心的な資料になります。 初診年月日、継続した治療の経過、作成日を確認します。 相続開始の前後に長く通院が途切れていた時期があると、その時期の状態を示しにくくなります。 |
| 年金の書類で申請・取得した (障害認定日が相続開始より前) | 手帳の等級は年金の等級に合わせて決まるとされています(自治体の案内による)。 相続開始時点も同じ等級で受給していたのであれば、強い裏付けになります。 |
| 年金の書類で申請・取得した (相続開始後に請求して受給が始まった) | 事後重症請求では受給権が請求日に発生するため(国民年金法30条の2、厚生年金保険法47条の2)、 年金の書類だけでは相続開始時点の状態を示しにくく、年金請求時の診断書の写しなどで補います。 公簿等で確認できる場合は手帳申請時に年金書類の提出が省略されることがあるため、写しを別途用意します。 |
| 期限内申告の後に手帳を申請・取得した | 要件(1)を満たしません。 期限内申告の後に手帳を取得し、更正の請求で控除を求めた事案で、 申告書の提出時までに申請していなかったとして認めなかった裁決があります(令和4年11月9日裁決・非公表)。 |
| 期限内申告をせず、期限後申告とした | 要件(1)を満たすかは確定的な先例が見当たりませんが、 文言上は否定されるおそれがあります。期限内に申告しておくのが安全です。 |
| 申請中のまま期限内申告をした | 要件(1)は満たします。 その後に交付されなかった場合や、等級が低かった場合は修正申告が必要です。 |
| 相続開始後に病状が悪化し、等級が上がった | 相続開始時点の状態に合う等級で適用します。 |
| 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある | 手帳がなくても特別障害者に該当します(所得税法施行令10条2項1号、相続税法基本通達19の4-2(1))。 成年被後見人がこれに当たるとした国税局の文書回答があります。 ただし、後見開始の審判がない場合の立証は重く、本人が遺産分割協議書に署名していると主張と矛盾します。 |
| 相続人が65歳以上 | 市町村長等の認定を受けて障害者に該当するルートもあります(所得税法施行令10条1項7号)。 通達19の4-3は、このルートには及びません。 |
| 障害者控除で全員の税額が0になる | 申告義務がなくなる場合があります(相続税法27条1項)。 ただし通達19の4-3は申告書の提出を前提としているため、期限内申告書を提出しておくのが安全です。 |